私たちの研究室では、生体分子、特に蛋白質分子の理論化学、生物物理の研究をしています。私たちは手法にこだわるつもりはありません。重要なのは手法ではなく、サイエンスを明らかにすることだと考えています。ですので、実験をやったほうが真理を理解するのに簡単・正確だ、という場合は実験をすればよいと思っています。逆に、理論の出番は実験でやってもよくわからない、せまりにくい、そういった対象に対してだと思っています。実験でせまりにくい複雑なシステム、そういった系を対象に、私たちは実験研究に先駆けて理論研究を行っています。私たちが理論で解明した後に実験が追従して実証してくれる。当研究室で行っている研究はそのようなものばかりです。
私自身は学部、修士課程の時は実験の研究室にいました。実験研究では、実験機器の順番待ち、実験機器が安定するまでの時間待ち、測定における待ち、等々あらゆる側面で時間がかかります。おしゃべりをしたり漫画を読んだり、、、と漫然と過ごしていたこのようなロスタイムを無駄にせず少しは有効利用できないか、と修士課程の時になってはじめて真面目に考えるようになりました。そのときに、理論研究も同時にできないか、また、理論であらかじめ対象を絞ることで研究をoptimizeできないか、と考えたのが私と理論研究の最初の関わりでした。
理論研究といっても私たちのグループでは紙と鉛筆だけで進めるようなスタイルではありません。分子の形を見ながら分子内のアクティブサイトや、分子間にはたらくインタラクションを見ながら、反応メカニズムの解明、実験事実がなぜそうなるかの所以(ゆえん)を、誰もがわかるような極力シンプルな言葉で説明していく。これが私たちの研究スタイルです。